本稿では、CHUWI(ツーウェイ)の格安中華ミニPC LarkBox Pro を使って遊んでみたいと思います。定価は Amazon で 2万5000円前後、6.1×6.1cm、高さ4.3cm と手の平サイズのPCです。初めて見た時、この非力なマシンでどんな使い方をすれば良いのかと思いましたが、スペックの詳細をみてびっくりしました。CPU は省電力性能を重視した Celeron J4125 と少し非力ですが、メモリ 6G でディスクも SSD 128GM も積んでいればかなりサクサク動きそうですし、4Kにも対応しています。電源供給は USB Type-C、USB ポート2つ、Micro SD Card のリーダーもついていました。USB ハブ経由で、キーボード、マウス、USB DVD ドライブを使えば普通のPCと同じようにLinuxをインストールできそうです。
製品名 : CHUWI LarkBox Pro
CPU : Celeron J4125 (2.0GHz ~ 2.7GHz)
コア数/スレッド数 : 4/4
メモリ : 6GB (LPDDR4)
内部ストレージ : 128GB eMMC (M.2 2242)
ビデオカード : UHD Graphics 600
無線LANアダプター : 2.4GHz/5GHz, 802.11a/ac/b/g/n
イーサネットアダプター : 無し
Bluetooth : Bluetooth 5.0
ディスプレイ : 無し
その他 : Windows 10 インストール済み
筆者は、最近 Amazon Fire TV を使って動画を視聴することが増えてきました。現状不満はありませんでしたが、たまに契約サイトにログイン済みのアプリが強制的にログアウトされて、ID パスワードの再入力を促されることがあります。リモコンを使ってのソフトウェアキーボードの操作は時間がかかりますし、ログイン後には既にスポーツの試合が始まっていたという事が何度かありました。
動画配信サービスはアプリを使わなくてもブラウザで視聴できるし、このミニPCにリモコンを取り付けて簡単にブラウザを使って動画視聴できないものかと通販サイトを眺めていたら Waves 社の AV-RC-01-MIC という Windows, Mac, Android, Linux 各OS対応というキーボードとエアーマウス(空中マウス)赤外線学習リモコンが一体になったリモコンを発見しました。片側はTVのリモコン、反対側はキーボードになっているので、これなら、このリモコンを使ってリビングのTVをディスプレイとして簡単なパソコン操作できそうです。
もちろんこのリモコンのようにキーボードがついていなくても、十字キーがついて、マウス操作が行えるシンプルなリモコンも沢山あるのでそちらを利用しても本記事と同じように扱えるように紹介していきたいと思います。
どんな軽量なLinuxディストリビューションをインストールしようかと思いましたが、このスペックあればどんなディストリビューションでも大丈夫そうです。普段使いのパソコンとしても利用できるように Ubuntu 22.04 を選択しました。
USB DVD ドライブを持っているならそちらを利用しても良いかもしれませんが、今回はみなさんがお持ちと思われる USB メモリに Ubuntu の ISO をコピーしてインストールする方法を紹介したいと思います。USB メモリをLinux に差し込むと、自動でマウントされるので df コマンドを実行してデバイス名を確認します。アンマウントして dd コマンドでダウンロードした ISO をUSB に書き込みます。これでインストールメディアの完成です。
$ df
/dev/sdb1 7895424 224 7895200 1% /media/USERNAME/XXXXXX
デバイス名
$ umount /media/USERNAME/XXXXXX
$ sudo dd if=ubuntu-ja-22.04-desktop-amd64.iso of=/dev/sdb
ダウンロードした ISO ファイル デバイス名
まずは、普通の USB キーボードとマウス、ISOを書き込んだ USB メモリ ミニPC LarkBox Pro に接続してインストールを開始します。USBポートは2つしか無いので、キーボードとマウスは交互に差し替えて操作するか、USBハブをお持ちならそちらを使って下さい。LarkBox Pro は、デフォルトでインストーラが起動してきましたが、機種によってはインストーラが起動してこないので、機種によって異なりますが F1 や Del キーを押して PC を起動してBIOS画面より USB メモリから起動するように設定を変更します。なお本機では、BIOS設定で「Chipset」-> 「South Cluster Configuration」->「HD-Audio Configuration」->「HD-Audio DSP」を Disabled (デフォルトはEnabled)にしないと、サウンドが HDMI に出力出来なかったので必ず Disabled に変更して下さい。インストーラ起動後は、適宜 Ubuntu をインストールします。リモコン操作で毎回ログインするのは面倒なので、インストール時に「自動的にログインする」を選択しておくと良いでしょう。インストール後でも設定メニューの「ユーザ」より「自動ログイン」を有効にすることによりパスワード無しでGNOME画面が起動してきます。その他、設定メニューの「プライバシー」->「画面」より「ブランクスクリーンの遅延」は「しない」、「自動画面ロック」は「無効」、「サスペンド時にスクリーンをロックする」は「無効」にしておくと良いです。
「ロック解除」をして「自動ログイン」を有効にします。
Ubuntu のデフォルトブラウザは Firefox です。こちらは後で少しカスタマイズするので、Chrome もダウンロードしてインストールしておきます。Chrome は、https://www.google.co.jp/chrome/ よりダウンロードします。「Chromeのダウンロード」より「64ビット Debian/Ubuntu 用」をダウンロードします。ダウンロードが完了するとパッケージを何で開くかを聞かれるので「ソフトウェアのインストール」を選択し、インストーラが起動するのでインストールを行います。起動しない場合は、~/ダウンロード/ ディレクトリにダウンロードされたdebパッケージがあるので、右クリックして「別のアプリケーションで開く」より「ソフトウェアのインストール」を選択します。
Chrome インストール後、登録したい動画サイトにアクセスしてログインを行い、ブラウザ再起動後に再ログインを行わなくても良い状態にしておいて下さい。筆者はとりあえず会員になっているアマゾン Prime Video にログインして、ブラウザを再起動後しても再ログインしなくても良いようにしました。
コマンドラインから動画サイトのURLをパラメータにブラウザを起動してすぐに動画を視聴できることを確認します。
連続で実行すると、新規タブが作成されていきます。動画サイト毎に新規ウィンドウ作成したり、常時フルスクリーンモード起動で起動したい場合は、オプションを追加して実行してみてください。
$ google-chrome --new-window --start-fullscreen https://www.amazon.co.jp/Amazon-Video/b?ie=UTF8&node=XXXXXXXXXX
Chrome の起動オプション
--new-window : 新規にウィンドウを開く
--start-fullscreen : フルスクリーンモード起動
Firefox の場合
-new-window : 新規にウィンドウを開く
フルスクリーンモード起動はFirefoxにはありません。
※ node= の後は各自で異なります。
民放TV局が共同で提供する動画配信サービス Tver は Linux 上の Chrome では視聴出来ないので、Firefox の 拡張機能 User-Agent Switcher で Windows の Firefoxよりサイトにアクセスしているように見せかけて視聴します。Chrome でも同じように User-Agent を切り替える拡張機能が存在しますが、筆者が試しましたが視聴できなかったので、Tver は Firefox で、それ以外は Chrome で視聴するように紹介していきます。
Firefox で、User-Agent Switcher のページ https://addons.mozilla.org/ja/firefox/addon/user-agent-switcher-revived/ にアクセスすると「Firefox へ追加」というボタンが現れるでクリックするとインストールされます。画面右上に User-Agent Switcher のアイコンが現れるので、クリックして Operating System は「Microsoft Windows」、Desktop は 「Mozilla Firefox」を選択します。Firefox で Tver https://tver.jp/ にアクセスして、生年月日、性別、郵便番号を登録して視聴できれば設定完了です。コマンドラインから実行してアクセスできることも確認しておきます。
$ firefox -new-window https://tver.jp/
このコマンドラインで実行したコマンドを、デスクトップにアイコンを作成してダブルクリックすれば起動するようにします。まずは favicon(ファビコン)といって、ブラウザのタブ上に表示されている、接続サイトのイメージアイコンを取得してデスクトップのアイコンにしたいと思います。
アイコンの取得は以下のURLの google API を利用します。
https://www.google.com/s2/favicons?domain=ファビコンを取得したいサイトURLを入れる&sz=サイズ(最大256)
例
https://www.google.com/s2/favicons?domain=https://www.amazon.co.jp/&sz=256
※ 取得できるアイコンの最大サイズは256×256ピクセルですが、サイトで実際に用意しているfaviconのサイズに依存するので必ず256×256のアイコンが取得できるわけではありません。
アイコンが表示されたら右クリックして「名前を付けて画像を保存..」より画像を保存します。/usr/local/share/icons/ ディレクトリを作成して、ダウンロードしたアイコンを配置していきます。
$ sudo mkdir /usr/local/share/icons/
$ sudo mv amazon.png netflix.png dazn.png tver.png /usr/local/share/icons/
アイコンの画像の準備が出来たのでデスクトップに配置するアイコンファイル(拡張子.desktop)を作成します。
amazon.desktop
[Desktop Entry]
Version=1.0
Name=Amazon プラムビデオ
GenericName=Amazon Prime
Exec=google-chrome --new-window https://www.amazon.co.jp/Amazon-Video/b?ie=UTF8&node=XXXXXXXXXX
StartupNotify=true
Terminal=false
Icon=amazon
Type=Application
Categories=Network;WebBrowser;
以下の4箇所を利用する動画サイト毎に変更して作成して ~/デスクトップ/ に配置します。
Name=Amazon プラムビデオ <- アイコン名
GenericName=Amazon Prime <- アイコンの説明
Exec=google-chrome --new-window https://www.amazon.co.jp/Amazon-Video/b?ie=UTF8&node=XXXXXXXXXX <- 実行コマンド
Icon=amazon <- アイコンファイル名(拡張子なし amazon.png なら amazon のみ)
$ mv amazon.desktop netflix.desktop dazn.desktop tver.desktop ~/デスクトップ/
desktop ファイル作成後、アイコンの位置はマウスで移動して好きな位置に配置します。
しかしそのままだとアイコンの右下に×マークがついておりこのままでは実行できません。アイコンを右クリックして「起動を許可する」を選択すると、× マークが消えてダブルクリックで実行出来るようになります。
このままでもリモコンのマウス機能を使い、ブラウザを起動して動画を視聴できますが、ブラウザのフルスクリーンや終了も簡単に操作したいです。
xdotool はマウス、キーボードの入力をエミュレーションしてくれるツールです。xdotool を使ってブラウザのフルスクリーンモードのショートカット F11、終了のChrome なら Alt+f x 、Firefox なら Ctl+q を実行するスクリプトを作成しておきます。
$ sudo apt install xdotool
full_screen.sh
#!/bin/bash
#ディスプレイ画面の設定 通常は:0
export DISPLAY=:0
# キーコード F11 を送信
xdotool key F11
chrome_exit.sh
#!/bin/bash
#ディスプレイ画面の設定 通常は:0
export DISPLAY=:0
# キーコード alt+f を送信
xdotool key Alt+f
# メニューが表示されるまで待つ
seelp 1
# 終了メニュー x を選択
xdotool key x
firefox_exit.sh
#!/bin/bash
#ディスプレイ画面の設定 通常は:0
export DISPLAY=:0
# キーコード Ctrl+q を送信
xdotool key Ctrl+q
作成したファイルは、実行権を与えて /usr/local/bin/ に配置します。
$ chmod 755 chrome_exit.sh firefox_exit.sh full_screen.sh
$ sudo mv chrome_exit.sh firefox_exit.sh full_screen.sh /usr/local/bin/
実行確認は、ブラウザを起動してターミナル上で以下のコマンドを実行します。sleep 5 秒以内にアクティブウィンドウをターミナルからブラウザに切り替えてスクリプトが正しく動作するか確かめます。
$ sleep 5 && chrome_exit.sh
この作ったスクリプトをリモコンで使えるようにします。xev は、キーが押されたときに、どのようなキーコードが返ってくるかを調べるツールです。筆者はリモコンの、赤、緑、黄、青ボタンをショットカットキーとして登録しようと考えました。xev を起動して赤ボタンを押すと以下のように F4 のキーコードが飛んでいることが分かりました。その他は 緑 F5、黄 F6、青 F7 でした。なおリモコンを触っているとログにはマウスの移動イベントも大量に出力されるので、リモコンは机に置いて動かないようにしてボタンだけ押して調べるのがお勧めです。
$ xev
:
KeyPress event, serial 34, synthetic NO, window 0xa00001,
root 0x521, subw 0x0, time 275366341, (1176,-42), root:(1300,72),
state 0x10, keycode 70 (keysym 0xffc1, F4), same_screen YES,
XLookupString gives 0 bytes:
XmbLookupString gives 0 bytes:
XFilterEvent returns: False
ショットカットキーの割当は、設定メニューの「キーボード」->「ショートカットの表示とカスタマイズ」より行います。「独自のショートカット」を選択して「ショートカットを追加」していきます。
筆者は、赤ボタン(F4) で Tver を視聴して、緑(F5), 黄(F6) でブラウザを終了、青(F7) でブラウザのフルスクリーン設定を行ってみました。操作に支障が無ければ、その他のキーにも自分の好みに合わせてショットカットを割り当てて下さい。
F4 : Firefox で Tver を開く
コマンド /usr/bin/firefox -new-window https://tver.jp/
F5 : Chrome 終了
コマンド chrome_exit.sh
F6 : Firefox 終了
コマンド firefox_exit.sh
F7 : フルスクリーン
コマンド full_screen.sh
ブラウザを使っての動画視聴方法を紹介しましたが、リビングにあるTVであれば家族みんなで所有している動画や写真も見られたら嬉しいです。Gnome のファイルマネージャは、以下のように実行すると指定した場所を開いて起動してきます。ローカルの ~/ピクチャ/ ディレクトリ、Google ドライブやDropbox などのクラウドサービス、家庭内のSambaサーバーなどと連携して指定ディレクトリを開いた状態でファイルマネージャが起動してくれれば、リモコンだけで操作が行えます。またファイルマネージャの終了ショートカットキーは Firefox と同じ Ctl+q なので Firefox 終了スクリプトも同時に利用できます。
サンプルでホームディレクトリのピクチャディレクトリを開く、picture.desktop を作成しました。先程はアイコンファイルをGoogle API を利用してダウンロードしてきましたが、/usr/share/icons/ にシステムアイコンが沢山インストールされています。目的にあったアイコンを探し、拡張子を除いたファイル名を Icon= に記述します。
/usr/share/icons/
picture.desktop
[Desktop Entry]
Version=1.0
Name=写真
GenericName=写真
Exec=xdg-open /home/ユーザ名/ピクチャ/
StartupNotify=true
Terminal=false
Icon=folder-pictures
Type=Application
これでかなり使い勝手がよくなりましたが、筆者が一番不満に思ったことは Ubuntu 22.04 ではデスクトップのアイコンの移動が十字キーで行えなかった事です。MATE と Cinnamon デスクトップ環境は共に、現在の Gnome インターフェース に不満を持った人たちによって作られたデスクトップ環境で、インターフェイスは少し前のデスクトップ環境と同じですが、デスクトップ環境に並べたアイコンを十字キーで移動してい人はこちらを利用してみては如何でしょうか?
MATE をインストールする場合
$ sudo apt install ubuntu-mate-desktop
Cinnamon をインストールする場合
$ sudo apt install cinnamon-desktop-environment
インストール後、ログアウトするとログインするデスクトップ環境のメニューが増えているので、変更して再度ログインします。
なお、MATE、Cinnamon共にショートカットを押してからキーが反映されるまで時間があるのか、/usr/loca/bin/ に配置したスクリプトにそれぞれ sleep 1 を追加する必要がありました。
#!/bin/bash
sleep 1 <- 追加
:
ログイン後、Gnome で行ったショートカットの設定は、他のデスクトップ環境では引き継がれていないので、MATE の場合は、設定メニューの「キーボードショートカット」->「追加」より、Cinnamon の場合は、設定メニューの「キーボード」->「ショートカット」->「カスタムショートカットを追加」より Gnome と同様の設定を行って下さい。